おいも研究室

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読書『ストーリーとしての競争戦略/楠木建』

戦略に関する本を読むと、戦略的思考のための様々な分析手法(ツール)が紹介されている事が多い。それ自体は魅力的に見えるが、実際に現場で適用しようとすると「それでどうすればいいのか?」となってしまう。本書は、そのような長年の自分の疑問に答える本である。 「競争戦略は、論理的に筋が通ったストーリーであることが重要である」というのが、この本を通しての筆者の主張である。では、ストーリーとしての経営戦略とは、一体何なのか。

論理的なストーリー

著者は、経営戦略は論理が大切だと述べる。論理とは何かと言うと、コンセプトから競争優位に至るまでの話の繋がりである。「この手を打つと、こうなるから、こう利益が出る」というストーリーが、論理的に矛盾せず、一貫して繋がっていれば、その流れは実現できるし、実現した時に思い描いていた筋書きを描く。逆に、これがイメージできていないと、まず成功にたどり着くことはできない。では、どうしたら論理的なストーリーを作ることができるのか?

エンディングから考える

著者は、論理的なストーリーを紡ぐためには、エンディングから逆算して考えるのがいいと述べている。当たり前だが、目的地が見えていないと、そこにたどり着くことはできない。エンディングを規定するにあたっては、本当のところ「誰に」「何を」「なぜ」売るのかを考えることが大切であると言う。「なぜ、その顧客がその商品なりサービスに食いつくのか?」「なぜ、お金を払うのか?」「なぜ、喜ぶのか?」「なぜ、喜びが持続するのか?」(注1)……これらを起点として、最終的に顧客の喜ぶ姿がありありとイメージできなければいけない。著者は、戦略ストーリーにとって切実なものは「自分以外の誰かのためになる」ということであると述べる(課題1)。これは、次に論じる「ストーリーの面白さ」に繋がってくる。

ストーリーの面白さ

ストーリーは面白いものであるべきである。面白くないストーリーになんか、誰も参加したくない。ストーリーが面白くて、共感し、興奮して、初めて人は自発的に動く。ゴールも魅力的なものであるべきだ。皆が幸せを感じられるようになる目的地であれば、そこに至るまでの道がどんなに険しいものであろうとも、途中で挫折せずに目指すことができる。まずは、自分自身が面白くて仕方がないーーこれが絶対の条件だという。著者は、戦略を描くことはサイエンスよりもアートに近いと述べている。明るい未来を想像し、そこに至るまでのストーリーを紡ぎ、実際に笑顔の増える未来を創り出すのは、社会への貢献につながる。

まとめ

ベストプラクティスを知っていても、フレームワークに関する知識があったとしても、ただそれを単純に適用して、成功を築き上げることはできない(課題2)。自分が理想を追い求める中で、現実に直面している問題に対して、途中で諦めず、粘り強く、納得のいくまで最善策を真摯に考えることにより、本当のゴールにたどり着くことができるといえる。

注釈

(注1)他社との違いが無いと、顧客は選んでくれない。

(課題1)戦略ストーリーにとって切実なものは「自分以外の誰かのためになる」ということ。では、自分で考えるとどうなるか?

(課題2)戦略思考を豊かにするためには、過去に生まれたストーリーを数多く読み、背後にある論理を読解すること(抽象化)が有効であると述べている。